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「財産分与」の概要
「財産分与」とは夫婦が「離婚」する場合に婚姻中に互いの協力によって形成した財産を清算するためその分与を求めることをいいます。「財産分与」の申立ては「離婚」後でも可能ですが遅くとも「離婚」後2年以内に請求する必要があります。
「共有財産」と「特有財産」
「財産分与」の対象となるのは夫婦が婚姻中に協力して形成した財産である「共有財産」です。夫婦の一方のみが仕事をして収入を得て他方は専業主婦(夫)で無収入である場合でも収入から生活費等を差し引いて残っている財産は「共有財産」です。
一方、当事者が「相続」や「贈与」により取得した財産や婚姻前に保有していた財産は「特有財産」といいます。「特有財産」は夫婦の協力により形成した財産ではありませんので「財産分与」の対象になりません。
なお、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は「共有財産」と推定されます。そのため、裁判例ではある財産が「特有財産」であると主張する配偶者が「特有財産」であることの立証責任を負っています。
「離婚」に伴う「財産分与」を把握する際に、「共有財産」及び「特有財産」の全体にわたって資産・負債ごとの全体像を整理するツールとして、最高裁判所ホームページ「人事訴訟事件で提出する書面の書式等」ページ中にある「婚姻関係財産一覧表(ひな形)」をご参照下さい。
「清算の基準時」
「財産分与」を行うに当たりいつの時点の財産が「財産分与」の対象になるかという問題を検討する必要があります。これを「清算の基準時」の問題といいます。
「財産分与」の対象となる財産を確定するための「清算の基準時」は原則として別居時です。前述のように「協力して形成した財産」といえない場合は「共有財産」となりませんので、別居によって夫婦の協力関係が終了すると考えられるためです。他方、別居は絶対的な「清算の基準時」ではありません。別居していても一方の配偶者の財産形成に他方の配偶者が貢献・協力している場合には別居時が「清算の基準時」とならない事例もあります。具体的な例として、別居後も一方の配偶者の仕事を他方が無償で手伝っていたり未成熟子の監護養育を他方が一手に引き受けているために一方が仕事をして収入を得られる場合などが挙げられます。
また、「清算の基準時」を別居時とした上で、別居後の一方の配偶者の財産形成に対する他方の貢献を「その他一切の事情」(民法第768条3項)として考慮し別居後に増加した財産分も一定程度「財産分与」の対象に含める考え方もあります。
「評価の基準時」
「清算の基準時」は、どの財産が「財産分与」の対象となるかという問題でしたが、それとは別に確定された分与対象財産の評価をいつの時点で判断するかという問題があります。これを「評価の基準時」といいます。
たとえば同居期間中に一方の収入から購入したAという不動産は夫婦の共有財産です。しかし、不動産や株式は評価額が日々変動しますので、Aという不動産の評価額も購入時と離婚時では異なることが一般的です。
このような場合、評価は原則として「分割時(離婚時)」とするのが我が国の家庭裁判所で一般的な実務上の取扱いです。離婚裁判になっている場合は、分割に最も近い時期として口頭弁論の終結時又は審判時の評価額が採用されることが一般的です。
預貯金
「評価の基準時」における残高をもって清算対象とすることが原則です。夫婦が互いに基準時における残高証明書や通帳のコピーを提出しあって残高を確定します。
預貯金の残高自体は客観的に明確なのです。しかし、配偶者の一方が別居時に他方の配偶者名義の預貯金から一定額を引き出して生活費として費消する、あるいは現金として手元に保管してトラブルになることがあります。その持ち出された財産は、残存していれば、財産分与対象財産となると考えることが一般的です。他方、別居後に「婚姻費用」として費消された場合、その額が適正であれば「財産分与」の対象財産から除外するという扱いが多いとされています。
株式
預貯金や自宅土地・建物と同様、夫婦の「共有財産」としての株式も「財産分与」の対象になります。株式には預貯金と同様に夫婦の資産形成として性質があることは勿論ですが、夫婦いずれか又は親族が経営する会社の株式を「財産分与」する場合には会社に対する支配権への影響を考慮する必要があり、また、非上場株式を「財産分与」する場合には非上場株式の現時点での評価や新規上場(IPO)見込みを評価する必要があることなどを検討する必要があります。詳しくは、「▷財産分与における株式の取扱い」ページを参照して下さい。
オーバーローンでないがローンが残っている場合
自宅土地・建物の評価額と住宅ローンをそれぞれ1/2の割合で清算します。つまり、不動産の評価額から残存ローン額を控除した残額の1/2を名義人である配偶者からもう一方の配偶者に「財産分与」します。
一方の配偶者が特有財産から頭金の一部を拠出した場合
一般に、自宅土地・建物の購入金額のうちに頭金の占める割合を「財産分与」時の評価額に掛けた金額を頭金を拠出した配偶者の「特有財産」として「財産分与」の対象から除外します。
例えば、夫の単独名義で5,000万円の自宅土地・建物を購入しました。その際、妻は結婚前の貯金「特有財産」から頭金として500万円を支出しました。この場合、購入額のうち頭金の占める割合は(頭金)500万円/(購入金額)5,000万円=10%になります。
残り4,500万円は夫の単独名義で住宅ローンを組み毎月の夫の収入から返済しました。(計算を簡便にするため諸費用は考慮していません。)
自宅土地・建物の購入から10年経過し評価額は6,000万円に上昇しており、住宅ローンの残高は3,000万円まで減少しました。
この場合、「財産分与」時の評価額は6,000万円-3,000万円=3,000万円です。そのうち10%の300万円は妻の「特有財産」となり残りの2,700万円が「財産分与」の対象となる「共有財産」になります。
したがって、自宅土地・建物のうち夫の取得額は2,700万円/2=1,350万円、妻の取得額も同様に2,700万円/2=1,350万円です。さらに、妻は「特有財産」として300万円を保有しています。離婚に当たり自宅土地・建物の名義人である夫は妻に対して「代償金」(清算額)として(妻の取得額)1,350万円+(妻の特有財産)300万円=1,650万円を支払うことになります。
評価額よりも残債が多いオーバーローンの場合
通常、唯一の「共有財産」が夫婦いずれかの単独名義でさらにオーバーローンの自宅土地・建物である場合は「財産分与」すべき資産はゼロとされます。すなわち、夫婦どちらかにオーバーローン状態の住宅ローン債務が残りますが、当該残債は債務の名義人が全て負担し、債務の名義人でない配偶者には負担させません。
ペアローンで自宅不動産を購入した場合
自宅土地・建物の購入に当たって夫婦が共同で住宅ローンを組むペアローンでは夫婦がお互いの「連帯保証人」になっています。当然、自宅土地・建物の「所有権」は夫婦の共有名義です。
離婚する場合は同居も解消されますので、少なくともどちらか一方の(元)配偶者が自宅土地・建物から退去します。その上で清算要領には次のような方法があります。
清算要領①
(元)配偶者の一方が自宅土地・建物を単独で取得します。この場合、もう一方の(元)配偶者の共有持分とローン残債を引受けます。これを「免責的債務引受」といいます。
この場合、借入先である金融機関がペアローンから単独ローンへの付替え及び名義人でなくなる(元)配偶者の連帯保証契約解除に応じる必要があります。したがって、単独で取得しようとする(元)配偶者に十分な返済能力が必要です。
清算要領②
(元)配偶者の一方が自宅土地・建物を単独で取得し、もう一方の(元)配偶者の共有持分とローン残債を引受けます。この際、全てのローン残債を他の金融機関からの借入れで一括返済します。単独で取得しようとする(元)配偶者に十分な返済能力が必要です。
清算要領③
(元)配偶者双方が自宅土地・建物を単独で取得することを望まない場合やどちらかが自宅土地・建物の単独取得を希望しても金融機関から返済能力が不足するとみなされて資金調達できない場合は自宅土地・建物を売却して全てのローン残債を返済します。
自宅土地・建物を売却する場合の「譲渡所得税」
離婚に先立ち、「共有財産」である自宅土地・建物を売却して現金化し「財産分与」する場合には売却益に賦課される「譲渡所得税」等について留意する必要があります。
売却する自宅土地・建物の所有期間が5年未満の場合は売却益に対して「短期譲渡所得税率」(30%)及び「住民税率」(9%)等が適用されますが、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得税率」(15%)及び「住民税率」(5%)等が適用されます。さらに、2037年までは所得に対して2.1%の復興特別所得税が加わります。
特別控除の特例
自宅土地・建物を売却する場合、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が適用されます。しかしながら、自宅の所有期間の長短に応じて「譲渡所得税」の税率は次のように異なります。
長期譲渡所得
自宅土地・建物を譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える場合の税額の計算の一例は次のようになります。
8年前に自宅土地・建物を購入した際の取得費(減価償却費控除後)2億円
離婚に際しての自宅土地・建物の譲渡価額 2億5,000万円
その際の仲介手数料等の譲渡費用 1,000万円
【計算式】
「譲渡所得」=「譲渡価額」(2億5,000万円)-「取得費(減価償却費控除後)」(2億円)-「譲渡費用」(1,000万円)=4,000万円
「長期譲渡所得税」={「譲渡所得」(4,000万円)ー「特別控除」(3,000万円)}×「長期譲渡所得税率」(15%)=150万円
「復興特別所得税」={「譲渡所得」(4,000万円)ー「特別控除」(3,000万円)}×「復興特別所得税率」(2.1%)=21万円
「住民税」={「譲渡所得」(4,000万円)ー「特別控除」(3,000万円)}×「住民税率」(5%)=50万円
従って、本件の離婚に際して自宅土地・建物の譲渡によって得る「譲渡所得」(4,000万円)に対し、「長期譲渡所得税」(150万円)、「復興特別所得税」(21万円)及び「住民税」(50万円)、合計221万円が賦課され、売却益(ネット)は3,779万円です。
売却した自宅土地・建物の全てが夫婦の「共有財産」である場合、夫婦一人当たりの「財産分与」額は1,889万5,000円です。
短期譲渡所得
自宅土地・建物を譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年未満の場合の税額の計算の一例は次のようになります。(売買価額等は上に挙げた「長期譲渡所得」と全く同じとします。)
【計算式】
「譲渡所得」=「譲渡価額」(2億5,000万円)-「取得費(減価償却費控除後)」(2億円)-「譲渡費用」(1,000万円)=4,000万円
「短期譲渡所得税」={「譲渡所得」(4,000万円)ー「特別控除」(3,000万円)}×「短期譲渡所得税率」(30%)=300万円
「復興特別所得税」={「譲渡所得」(4,000万円)ー「特別控除」(3,000万円)}×「復興特別所得税率」(2.1%)=21万円
「住民税」={「譲渡所得」(4,000万円)ー「特別控除」(3,000万円)}×「住民税率」(9%)=90万円
従って、本件の離婚に際して自宅土地・建物の譲渡によって得る「譲渡所得」(4,000万円)に対し、「短期譲渡所得税」(300万円)、「復興特別所得税」(21万円)及び「住民税」(90万円)、合計411万円が賦課され、売却益(ネット)は3,589万円です。
売却した自宅土地・建物の全てが夫婦の「共有財産」である場合、夫婦一人当たりの「財産分与」額は1,794万5,000円です。
「財産分与」に対する「贈与税」の課税
「離婚」による「財産分与」には、通常、「贈与税」は課税されません。これは、「財産分与」が「贈与」ではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものと考えられるからです。しかし、次のいずれかに当てはまる場合には「贈与税」が課税されますので注意が必要です。
【参考】「離婚」成立前に自分が急死した場合に「配偶者」に遺産を渡したくない
「もしも私の病状が回復せずに『離婚』成立前に先立つことになれば遺される子どもはどうなるのでしょうか?」、「遺産を子どもに遺せませんか?」等、「離婚」成立以前の万一の備えに関するご相談を受けることがあります。
この様な場合は「離婚」に先立ち、「遺言」を作成することをお勧めしています。「配偶者」の「遺留分」を侵害する内容の「遺言」も有効です。但し、「配偶者」が「遺留分侵害額請求」を提訴する可能性がありますので十分な準備検討が必要です。
「遺留分」の考え方については当事務所ホームページ「▷遺留分」をご参照下さい。
【参考】「財産分与」の取決めのない「協議離婚」後の「財産分与請求」
「早く 『離婚』したいばかりに『財産分与』の取決めをすることなく『協議離婚』しました。『離婚』後の『財産分与請求』は可能でしょうか?」というご相談を受けることがあります。
「離婚」成立日から2年以内であれば「財産分与」を請求することが可能です。「離婚」後2年を過ぎてしまうと、相手が任意に応じない限り「財産分与」を請求することはできません。(民法第768条2項)そしてこの2年という期間は、「時効」ではなく「除斥期間」(「時効」のように延長すること等ができない不変期間)と解されています。したがって、既に「離婚」している場合で2年の期間が目前に迫っている場合は、期間内に確実に権利を行使するためできるだけ早く「財産分与請求調停」を申し立てる必要があります。「財産分与調停」が成立しない場合は、自動的に「財産分与請求審判」に移行し、裁判官が必要な審理を行った上で相当な財産分与額を決めることになります。「審判」に不服のある当事者は、「即時抗告」という不服申立手続を執ることにより、更に高等裁判所の審理を求めることが可能です。
ご依頼者のご心情に寄り添う対応を心がけています。先ずはお気軽にご相談ください。