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【ケース・スタディ9 「永住者」に対する国際課税の問題】
多国籍企業X社日本法人に管理職としてお勤めのアメリカ国籍のA氏は在留資格「技術・人文知識・国際業務」で既に6年間東京にお住まいです。妻Bさんは日系アメリカ人で日本の生活に馴染んでいますし、お子さんたちも日本語が流暢で東京の大学に在学しています。将来も日本に永住したいと考えていますが、日本の永住者になるとアメリカ国内に保有している預金、証券、個人積立年金に日米両国から課税されるのでしょうか。
外国人管理職のための「在留資格」
外国人が日本で一定の活動を行いながら在留するためには就労を可能とする「在留資格」を取得することが必要です。
そして、外国人が日本に所在する多国籍あるいは外国籍企業に勤務するためには、勤務先の企業との労務契約に限定して就労を許される「業務限定就労可能資格」のいずれかの「在留資格」を取得することが一般的です。
「経営・管理」 経営者
「就労資格証明書」と「在留資格変更許可申請」
今後、多国籍企業X社が日本支社を廃止してA氏を含む全従業員を解雇したり、A氏の所属部門における人員整理を開始してA氏を解雇することになれば、A氏は新たに日本国内で転職して家族と共に日本で生活する道を探すことになるでしょう。
転職先の企業でも同じ業務内容であれば「在留資格」を変更せずに転職できることを証明してもらうために東京出入国在留管理局に対して「就労資格証明書」を申請する必要があります。また、業務内容が異なる場合には新たな「在留資格」を取得するために東京出入国在留管理局に対して「在留資格変更許可申請」を提出し許可を受ける必要があります。
しかし、最悪の場合、A氏の転職活動が上手く行かなければ家族と共にアメリカに帰国せざるを得ないことになります。
「競業避止契約」による転職への制約
特に、ITやAIなどの先端分野で活躍する多国籍企業は中核的役割を担う外国人専門家を雇用する際に「Restrictive Covenants Agreement」(「RCA」、「競業避止契約」)を結び退職後の一定期間に競合地域内で競争相手への転職を制限していることがあります。
転職先の企業でも同じ業務内容であれば「在留資格」を変更せずに転職できる場合であったとしても、明らかに「競業避止契約」を侵害する転職とみなされれば民事上の損害賠償請求訴訟の対象となる場合があります。現在お勤めの多国籍企業と締結している雇用契約や「競業避止契約」を普段からしっかり把握しておくことが大切です。
「競業避止契約」に関する重要な判例は経済産業省が取りまとめています。ご興味のある方はこちらをご覧ください。
「無制限就労可能資格」
A氏の「在留資格」である「技術・人文知識・国際業務」のように就職先(雇用者)や業務内容ごとに「在留資格」の取得を求められる「業務限定就労可能資格」は3から5年の中期的な日本における就職・生活には十分な制度といえます。
他方で、A氏のケースのように「妻Bさんは日系アメリカ人で日本の生活に馴染んで」いて「お子さんたちも日本語が流暢で東京の大学に在学して」いて家族ともども「将来も日本に永住したい」という希望をお持ちの場合には、一般的な日本人と同様に就職先や業務に制約がない「地位類型型」、「無制限就労可能資格」と呼ばれる次のような「在留資格」を取得することを検討する必要があります。
「業務限定就労資格」から「永住許可申請」
「永住者」への「永住許可申請」は他の「在留資格変更許可申請」とは別個の手続きが規定されており次の3要件を満たすことが求められます。(「出入国管理及び難民認定法」、以下「入管法」第22条)
① 「素行善良要件」 素行が善良であること。
② 「独立生計要件」 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること。
③ 「国益要件」 その者の永住が日本国の利益に合すると認められること。
出入国在留管理庁は「永住許可に関するガイドライン(令和6年6月10日改訂)」(以下「永住許可ガイドライン」)に具体的な要件を取りまとめています。なかでも在留期間は「原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。ただし、この期間のうち、就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く。)又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。」と厳しく規定されています。
しかし、「永住許可ガイドライン」では、この「原則10年在留」(一般的に「日本継続在留要件」といいます。)に特例が定められており、日本での在留期間が10年に満たなくても「永住許可申請」が可能となる場合もあります。たとえば、「永住許可ガイドライン」には「原則10年在留に関する特例」として「『定住者』の在留資格を付与された後、引き続き5年以上日本に在留している」、「高度専門職省令に規定するポイント計算を行った場合に70点以上を有している者(高度人材外国人)として3年以上継続して日本に在留している」、「高度専門職省令に規定するポイント計算を行った場合に80点以上を有している者(高度人材外国人)として1年以上継続して日本に在留している」場合などが挙げられています。
多国籍企業X社日本法人に管理職としてお勤めのアメリカ国籍のA氏は在留資格「技術・人文知識・国際業務」で既に6年間東京で生活していますが「就労資格をもって引き続き5年以上在留している」要件を満たしているか否かは判然としません。また、A氏は「定住者」ではありませんから「引き続き5年以上日本に在留している」ことをもって「日本継続在留要件」を満たしていることにはなりません。もっとも、「高度人材外国人」として高度専門職省令に規定するポイント計算を行った場合に70点以上を有しているといえる場合には、A氏は3年以上継続して日本に在留していますので「永住許可申請」することが可能であると考えられます。もちろん、A氏はあと4年待ち「原則10年在留」の要件を満たしてから「永住許可申請」するという選択肢もあります。
永住許可申請に必要な立証資料(一例、すべて和訳・翻訳証明が必要)
多国籍企業X社日本法人に管理職としてお勤めのアメリカ国籍のA氏が「永住許可申請」するに当たっては少なくとも次の立証資料が必要です。
所得税法上の「永住者」の定義
ここまで入管法上の「永住者」に関する手続きについてご説明しましたが、所得税法上の「永住者」は定義が異なりますので注意が必要です。
多国籍企業X社日本法人に管理職としてお勤めのアメリカ国籍のA氏が入管法上の「永住者」となると否かにかかわらず、在留資格「技術・人文・国際業務」で本邦に入国してから満5年を経た後は所得税法上の「永住者」として扱われ、国内および国外において生じたすべての所得に対して日本国政府から課税されます。A氏は既に日本在住6年を経ていますので所得税法上は「永住者」として扱われているはずです。
その結果、日本においては「確定申告」、アメリカにおいては「Tax Return」を行い両国で納税する義務が生じますが、その際の日米両国による二重課税や脱税を回避するための取極めが「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」(以下「日・米租税条約」)です。
A氏の外国所得に対する課税
A氏はアメリカ国内に保有している預金、証券、個人積立年金に日本でも課税(二重課税)されることを危惧していますので、それぞれの財産に対する日本での課税取扱いについて整理します。
入管法上及び所得税法上の「永住者」
弊事務所のクライアントの皆様からは「では入管法上の『永住者』になった方がいいのですか?それともならない方がいいのですか?結論を教えてください。」と尋ねられることがあります。
ご本人やご家族が永続的に日本で生活することを希望される場合には就労に制約が無く生活基盤の安定につながる(入管法上の)「永住者」になることをお勧めしています。
他方で、入管法上の「永住者」になるか否かに関わらず日本での滞在が5年を経たのちは所得税法上の「永住者」として収入源が日本国内外であるかを問わず申告・納税する義務が生じますので誠実に履行するようお願いしています。(二重課税の問題は「日・米租税条約」により解消されています。)
日本人の子・孫
お気づきの方はいらっしゃるでしょうか?本ケース・スタディ6「永住者」に対する国際課税の問題では最初に「妻Bさんは日系アメリカ人」と設定しました。
もし妻Bさんのご出生時にご両親のいずれかが日本国籍を保有していれば妻Bさんは日本人の実子等に該当しますので「永住許可ガイドライン」が定める原則10年在留に関する特例として1年以上本邦に継続して在留していれば「永住許可申請」が可能です。
また、妻Bさんが日系3世や4世であれば在留資格「定住者」を許可される可能性があります。
ご依頼者のご心情に寄り添う対応を心がけています。先ずはお気軽にご相談ください。