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「生前贈与」
「生前贈与」とは「被相続人」となる人の存命中に財産を他者に「贈与」することです。「遺言」は遺言者(「被相続人」)の一方的な意思表示で行うことが可能ですが「贈与」は契約であるため「これをあげます」、「はい、もらいます」という「贈与者」と「受贈者」との意思の合致が必要です。(民法第549条)
「相続」により財産を取得した人は「相続税」を支払う必要があります。同様に「贈与」により財産を取得した人は「贈与税」を支払う必要があります。しかし、「贈与税」に係る様々な特例を利用したり「贈与税」の「基礎控除額」の範囲内で「贈与」するなどの方法で「贈与」時の「贈与税」の支払いを遅らせたり抑制するように工夫することは可能です。
推定「相続人」や更に次の世代(孫など)に「生前贈与」しておくことで「被相続人」の遺産総額を減らしておけば「相続人」の「相続税」負担額を減少させる効果を期待できます。
「相続時精算課税制度」
原則60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫へ「贈与」する際に選択できる制度です。「贈与」を受ける時点では「基礎控除額」(年間110万円)に加えて「特別控除額」(累計2,500万円)まで贈与税がかかりません。
例えば、令和6年10月1日に70歳の父が40歳の息子に対して2,610万円の財産を「相続時精算課税制度」を利用して「贈与」した場合「基礎控除額」110万円と「特別控除額」2,500万円(合計2,610万円)まで「贈与税」がかかりません。
仮に贈与額が2,700万円の場合は{(2,700万円-110万円)-2,500万円}×20%=18万円の「贈与税」がかかります。
贈与者が複数人の場合の注意点
「相続時精算課税制度」の「特別控除額」は「贈与者」ごとに累計2,500万円まで適用されます。
他方、「相続時精算課税に係る基礎控除額」は「贈与」した人ごとではなく「贈与」を受けた人ごとに1年間で110万円まで適用されます。
例えば、1人の「受贈者」が2人の「贈与者」から贈与を受けた場合「特別控除額(累計2,500万円)」は2人分(つまり累計5,000万円の「特別控除額」)が適用できますが、「相続時精算課税制度」に係る「基礎控除額」は1年につき110万円のみということです。
詳細は国税庁タックスアンサー「No.4410 複数の人から贈与を受けた時」をご参照ください。
この制度を利用した贈与額については「贈与者」についての「相続」が発生した場合に「相続財産」に加算した上で「相続税」を計算します。
「相続時精算課税制度」の名前のとおり「相続」が発生した際には「贈与」した財産を「相続財産」に加算して「相続税」を計算するということです。「基礎控除額」年間110万円に該当する「贈与」は加算する(足し戻す)必要はありませんが「特別控除額」2,500万円に該当する「贈与」については「贈与」時の「贈与税」は課税されないものの「相続」時に「相続税」が課税されますので納税時期の先送りともいえます。
とはいえ、令和6年税制改正により「相続時精算課税制度」は従来よりも使い勝手が格段に向上したといえます。
というのも、令和6年税制改正前は、「相続時精算課税制度」を選択すると「暦年課税」にある年間110万円の「基礎控除額」が使用できなかったからです。しかし、令和6年1月1日以降「相続時精算課税制度」に年間110万円分の「基礎控除額」が設けられたため、従来はできなかった「贈与」が可能となりました。(ここでは仮に年齢等の要件を満たしているものとします。)
ケース・スタディ5 「相続時精算課税制度」の「基礎控除額」を活用
令和6年5月1日、父が娘に「相続時精算課税制度」を利用して1,200万円「贈与」しました。この際、「基礎控除額」110万円に加えて「特別控除額」1,090万円を活用し「相続時精算課税制度」の「特別控除額」残額は1,410万円になりました。
令和7年8月1日、父が娘に「相続時精算課税制度」を利用して300万円を「贈与」しました。この際、「基礎控除額」110万円に加えて「特別控除額」190万円を活用し「相続時精算課税制度」の「特別控除額」残額は1,220万円になりました。
令和8年10月1日、父が娘に「相続時精算課税制度」を利用して800万円を「贈与」しました。「基礎控除額」110万円に加えて「特別控除額」690万円を活用し「相続時精算課税制度」の「特別控除額」残額は530万円になりました。
令和9年に父が亡くなった場合、「相続財産」は父から娘に「相続時精算課税制度」を利用して「贈与」した累計額から年間110万円の「基礎控除」を控除した額を加算することとなります。
すなわち、1,090万円+190万円+690万円=1,970万円を「相続財産」に加算することになるということです。実際の贈与額合計は2,300万円ですから年間110万円の「基礎控除額」を活用することで納税額の観点からは娘にとって有利になっているといえます。
メリット
デメリット
「暦年課税(暦年贈与)」
毎年、1月1日から12月31日の1年間を通じて「受贈者」一人につき110万円までの「贈与」が非課税になります。110万円までの「贈与」であれば税務署への申告も不要です。
年額110万円の「基礎控除額」を超えた分の「贈与」については「受贈者」は「贈与税」を支払う必要があります。
なお、「贈与」により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日に18歳以上の者に限る。)が直系尊属(父母や祖父母など)から「贈与」により取得した財産は「特例贈与財産」として一般的な「贈与」に比べて軽減された贈与税率が適用されます。
ケース・スタディ6 贈与額が1,000万円の場合の一般的な贈与税額
基礎控除後の課税価格 1,000万円-110万円=890万円
贈与税額 890万円×40%-125万円=231万円
ケース・スタディ7 贈与者が父、受贈者が30歳の子(特例税率)
基礎控除後の課税価格 1,000万円-110万円=890万円
贈与税額 890万円×30%-90万円=177万円
「教育資金の一括贈与」
30歳未満の子や孫に対して直系尊属(祖父母や父母)が教育資金を一括贈与する場合に累計1,500万円までは非課税になる制度です。
非課税限度額は「贈与者」の数ではなく「受贈者」の数を基準とします。つまり、A氏に2人の孫(B子とC子)がいる場合、A氏がこの制度を利用してB子とC子それぞれに1,500万円を「贈与」した場合にB子もC子も「贈与税」を課税されません。
なお、「暦年課税」の基礎控除と併用できますので実際には一度に「受贈者」一人当たり1,610万円まで「贈与税」の課税なしで「贈与」できます。
手 続
この制度を利用するには銀行、信託銀行、信用金庫、証券会社などの金融機関との間で事前に次に挙げる手続きが必要です。
利用方法
金融機関が教育資金専用口座を管理します。
定められた期限内に「受贈者」が教育資金に関係する領収書を金融機関に提出するとその分だけ資金を引き出すことができます。もっとも、「受贈者」が未成年者の場合は実際の手続は親権者が行います。
例えば、「受贈者」(実際には親権者)が「受贈者」である子が通学する私立中学校の学費を支払った場合に、学校から交付された領収書を「教育資金専用口座」を管理する金融機関に提出すると支払った学費相当額を引き出すことができます。
注 意 点
受贈者が30歳に達すると原則として「教育資金専用口座」に係る契約が終了します。終了時点の口座残高(教育資金として使いきれなかった残額「管理残額」)に「贈与税」がかかります。
ただし、「受贈者」が30歳を過ぎても学生であれば金融機関に届け出ることで「教育資金専用口座」に係る契約を最長40歳まで延長することが可能です。
その後、在学中・受講中ではなくなった年の年末または40歳に達した時に「教育資金専用口座」に係る契約は終了し「管理残額」に「贈与税」が課されます。
「教育資金専用口座」に係る契約の契約期間中に「贈与者」が死亡した場合の扱いは次のとおりです。(令和3年4月1日以降に「贈与」した場合)
「贈与者」の死亡時点で「管理残額」がある場合は原則として当該残額に「相続税」が課されます。
但し、次の場合には「相続税」は課されません。(後述のとおり「相続税」の課税額が5億円を超える場合を除きます。)
したがって、「受贈者」が23歳未満であったり学生である場合には「教育資金専用口座」に係る契約期間中に「贈与者」が死亡した場合でも「受贈者」は「管理残額」に「相続税」を課されないというのが令和5年の税制改正前の運用でした。
しかし、令和5年の税制改正により令和5年4月1日以降に「贈与」された財産については、「贈与者」の死亡時点において「受贈者」が23歳未満であったり学生であっても、「贈与者」に係る「相続税」の課税価格の合計額が5億円を超える場合は「管理残高」に「相続税」がかかることとなりました。なお、教育資金の一括贈与における「管理残額」は「相続税の課税価格の合計額5億円」には含まずに判断します。富裕層への課税強化という趣旨に基づくとされています。
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